その夜の飲み会で、迂闊にも私は悪酔いしてしまった。

taetae1092009-05-08

隣に座っていた元上司が、

「まあまあ、久しぶりなんだから飲め」

とか言いながら、濃いめの焼酎をブレンドしていたに違いない。
空きっ腹にそれをぐいっと数杯飲んだあたりから、
視界が回転し出した。

やばい!と思いトイレに直行し、嘔吐の繰り返し。
実は、数十年ぶりに再会する同窓会の飲み会だっただけに、
こんな醜態は誰にも見せたくなかった。

宴席に私の姿が見えないことに気づいたひとりの元同僚男性I君が、
トイレの外から声をかけてくれた。

「大丈夫か?気分が悪かったらどうして欲しいか大声で言えよ」

トイレの中で孤独な嘔吐を繰り返していた私には、
その一言が妙に嬉しかった。

「う、うん大丈夫。もうすぐ出るから待ってて」

一応返事はしたものの、立つと目が回る。

「とりあえずいったんそこから出て様子を見せろよ。水飲ませてやるからさ」

何だか家族みたいにやさしいヤツだと思った。

I君は、今夜集った中で最も“モテナイ男”と思われるルックスで、

頭髪はすっかり薄くなり、出世欲もないから、

会社をリストラされた後は、夫婦でマンション管理人になって、

毎日のんびり読書をしながら暮らしているらしい。

そんなI君だけれど、昔っからとびっきりやさしくて、

彼のやさしい言葉に触れると、その肩にもたれかかりたくなるのだ。


I君の言うとおり、いったんトイレから出て、

彼が用意してくれた水を一杯飲み干した。

「お前、一人でトイレに閉じこもっていたら、脱水症状をおこしちゃうだろ」

そう言いながら、I君は私の背中をさすってくれた。

I君のおかげでようやく嘔吐もおさまり、一次会の店を後にした。

「お前、このまま一人で帰すわけにはいかないから、二次会付き合え」

I君の指示に素直にうなずき、カラオケに言ったものの、また嘔吐・・・。

この時もI君が適切な処置をしてくれて、衣服を汚さずに済んだ。

「もう全部出したから大丈夫だ。気をつけて帰れよ」

遠方から来てくれたI君は、宴会より私の世話にあけくれてしまったはずなのに、

最後まで感動的なやさしさで私を包んでくれた。

そして一言、女を惑わせる台詞を残して、彼は電車から降りていったのだ。

「酔っぱらったお前もかっこいいよ」

え〜っ!そんなこと言われたら、好きになっちゃうじゃない・・・。


既女になってから、こんなふうにやさしくされたのは初めてかも。

I君にはとってもかわいい奥様がいるし、

全くと言っていいほど“下心”を感じさせる軽薄な行動はなかった。

こういう紳士的なふるまいも、I君の魅力になっているのだ。

私が“元同僚”以上の感情を抱くことはなかったが、

いつかまた会う機会があったら、ひれ伏してでもお礼を言いたい!

I君、本当にありがとう。


見た目がどうあれ、女はI君のような男性には心を許したくなるし、

もっと一緒にいたくなる。

モテようとか気張らなくても、素のままでも女を惹きつける男性っているんですね。

私も女性版I君になってみたいです。