プーチンと柔道の心作者: V・プーチン,V・シェスタコフ,A・レヴィツキー,山下泰裕,小林和男出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2009/05/07メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 52回この商品を含むブログ (22件) を見る

ロシアのウラジミール・プーチン首相が来日し、過密スケジュールの中、5月12日の午後10時過ぎ、離日を一日延ばして「プーチンと柔道の心」の出版記念会に出席したそうだ。

テレビの報道で拝見するプーチン首相は、厳しい表情をしていることが多いようだが、柔道のことになると、首脳会談では見せない表情や発言をされるらしい。

今回の出版会見のスピーチでも、こんなことを言っていたと新聞に載っていた。

「世界全体を愛することは簡単だが、隣を愛することはむずかしい」

「日本は知識と技術、そして文化を輸出して豊かになった。石油や天然ガスに頼るだけでなく、私たちもそういう日本を見習わなければならない」

オフレコかもしれないが、プーチン首相のこういう発言をマスコミがもっと報道してくれたら、
私たちのロシアに対するイメージは、今とは違ってくるだろう。

麻生首相は、プーチン首相との首脳会談で、少しでも柔道の話をしたのだろうか。
むずかしい政治的対談の前に、相手が興味ある話や、相手の国情を察する話で緊張感を緩和し、より友好的な対話を展開してほしい思う。


ところで、“プーチン首相”と“柔道”というキーワードが深く関わっているということを、どれだけの日本人が知っているだろうか。

プーチン首相は、2003年に「プーチンと学ぶ柔道」という本を出版している。
ロシア人向けに、柔道の歴史や技術、練習法を解説する本格的な入門書だ。

プーチンと柔道の心」は、「プーチンと学ぶ柔道」から、プーチン首相と柔道、日本とのつながりが書かれているところをピックアップして、柔道家山下泰裕氏と元NHKモスクワ支局長の山下和男氏が編集したものだ。

13歳で柔道に巡りあうまでのプーチン少年は、いわゆる“通り”で喧嘩をしている不良だった。周りの世界で“いい顔”をするために、色々な方法で体を鍛えようとした。

そんなプーチン少年が柔道と出会い、コーチの“ラフリン先生”と出会ってから、人生が一転していく。

柔道の最初の稽古でプーチン少年が学んだのは“規律”と“ルールの大切さ”。

柔道には厳格な“ルール”があるが、(通りの)喧嘩にはルールがない。
自分の力を見せようと思ったら、“ルール”の枠の中でやらなければならないと。

この考え方が、後に大統領となってからもプーチン政治の根本となった。
すなわち、ルール=「法」が基本だと。
対日関係にしても、日ロ両国間での約束事(法)である「日ソ共同宣言」を中心に考えるのが、プーチン首相の思考法らしい。

ある時、柔道のコーチであるラフリン先生が、プーチン少年に日本の柔道の小さな人形をプレゼントしてこう言った。

「この闘っている人形には哲学がある。
二人は敵ではなく競争相手だ。いずれもが勝ちたいと思っているが、
殺そうとしているのではない。
彼らが見せるのは、どちらが技術的に勝っているかということで、争うことではない。
われわれの生活も同じようなものだ」

本当の教育者とはこういう先生を言うのかもしれない。
ラフリン先生は、教え子が大統領になっても、ヴァロージャ(プーチン少年の呼称)と呼び、“師匠と弟子”という関係を全く変えなかったという。

「柔道は日本の伝統文化、歴史が生んだ哲学、人の生き方だ」
とまで語るプーチン首相が、今回の来日で山下泰裕氏と対談した際、
2016年東京オリンピック招致の協力要請に“期待をはるかに上回るうれしい答え”を返したのは、柔道と無関係ではない気がする。

余談だが、プーチン首相のモスクワの自宅には、柔道の父“嘉納治五郎”の等身大の銅像が置いてあり、毎日礼を欠かさないそうだ。